気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)

世界各地で異常気象による大規模な自然災害が多発する中、クレハグループは気候変動を重要な課題のひとつと捉え、2050年度までにカーボンニュートラルの実現と生産技術の高度化による環境負荷低減を目指します。
2022年4月に、「気候関連財務情報開示タスクフォース」(以下、TCFD)提言への賛同以降、株主・投資家などのステークホルダーと、当社グループの気候変動へのエンゲージメントを強化するため、TCFDの情報開示フレームワークに沿った情報開示を進めています。

  • * G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討するため設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業などに対し、気候変動関連リスクおよび機会に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」について開示することを推奨しています。

ガバナンス

気候変動を含むサステナビリティの取り組みを確実に実行するため、サステナビリティ委員会およびサステナビリティ推進委員会を中心とするガバナンス体制を構築するとともに、取締役会による監督を行っています。各会議体の役割は以下のとおりです。

①取締役会

取締役会は、当社グループのサステナビリティに関する重要事項の決定を行います。サステナビリティ委員会の提言をもとに、「マテリアリティ」を決定します。さらに、「マテリアリティ」への取り組みを反映した中長期経営計画を立案・決議し、各部門へ展開します。また年1回以上、サステナビリティ推進委員会から「カーボンニュートラルへの取り組み」を含む「マテリアリティ」に関する活動の報告を受け、監督を行っています。

②サステナビリティ委員会

サステナビリティ委員会は、取締役会の諮問委員会として、原則年2回開催しています。当社グループを取り巻くサステナビリティに関する経営環境の変化を監視し、当社グループの持続的成長と中長期的な企業価値の向上のために特に注力すべき課題である「マテリアリティ」を特定するなど、気候変動を含むサステナビリティに関わる経営の基本方針や戦略に関し、取締役会に対して提言を行っています。また、サステナビリティ推進委員会からの報告などを通じて、「カーボンニュートラルへの取り組み」を含む「マテリアリティ」のモニタリングを行っています。

③サステナビリティ推進委員会

サステナビリティ推進委員会は、当社グループおよび社会の持続可能性に影響を与えるリスクおよび機会を「サステナビリティ課題」として特定し、ステークホルダーと一体となってリスクの最小化および機会の最大化に取り組みます。「マテリアリティ」を含む「サステナビリティ課題」解決の具体的な計画を傘下の6つの専門部会(レスポンシブル・ケア部会、コンプライアンス部会、情報セキュリティ部会、情報開示部会、人権部会、リスク・マネジメント部会)および主管部門との協働で策定し、その活動の進捗管理を行っています。「マテリアリティ」のひとつである「カーボンニュートラルへの取り組み」は、レスポンシブル・ケア部会で取り組んでいます。
これらの結果は、サステナビリティ委員会に共有されます。また年1回以上、取締役会に対して気候変動を含む「マテリアリティ」に関する活動の報告をしています。

④カーボンニュートラルプロジェクト

全社プロジェクトとして2021年10月に社長直轄の「カーボンニュートラルプロジェクト」を設置し、2050年度までのカーボンニュートラル実現に向けた新たな施策の検討や技術開発に取り組んでいます。

気候変動に関するガバナンス体制
会議体名称 委員長 構成員 気候変動を議題とする頻度
サステナビリティ委員会 代表取締役社長
小林 豊
全取締役およびサステナビリティ推進委員長 年2回
サステナビリティ推進委員会 取締役常務執行役員
田中 宏幸
委員長が指名 年2回

戦略

SASB RT-CH-110a.2

当社グループは、「カーボンニュートラルへの取り組み」をマテリアリティと捉え、「クレハグループ中長期経営計画『未来創造への挑戦』」のもと、2050年度までのカーボンニュートラルの実現を目指して、当社グループからのCO2排出量削減と、製品を通じたCO2排出量削減の両面から、気候変動の緩和に取り組んでいます。
当社グループのCO2排出量削減に向けて、いわき事業所の石炭火力発電所におけるCO2フリー燃料の活用、生産技術革新による省エネ化、各事業所やグループ会社におけるCO2フリー電力の活用拡大、大規模設備・機器の更新時の高効率化などを計画に沿って進めていきます。また、製品・技術を通じたCO2排出量削減への貢献として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリフェニレンサルファイド(PPS)などの機能樹脂の環境負荷低減を目指した性能向上および技術開発、さらなる高機能素材の市場投入を目指した研究開発を進めています。

投資計画

中長期経営計画において、2030年度までに生産におけるCO2削減対策、廃棄物低減対策などに累計約100億円の環境投資を計画しています。CO2排出量削減の投資にあたっては、将来のリスク・機会に基づいて判断していきます。

シナリオ分析

GRI 201-2, SASB RT-CH-110a.2

気候変動が当社グループに与える影響について、以下のステップでシナリオ分析を行い、損益・資金計画に与える影響について検討を進めたうえで、短期、中期、長期におけるリスク・機会および対応策を整理しました。

  1. 当社グループの事業の大半を網羅する機能製品事業、化学製品事業、樹脂製品事業、建設関連事業、環境事業を対象とし、事業計画や研究開発計画を参考にしながら、長期的な視野に立って、ビジネスに影響を与える可能性のある気候変動要因に関連したリスク・機会および対応策をリスト化
  2. 進展(1.5℃)シナリオ、標準(2℃)シナリオ、停滞(4℃)シナリオの3つのシナリオを設定
  3. 2050年までを短期(0-3年間)、中期(3-10年間)、長期(10-30年間)に分け、シナリオごとにリスク・機会の重要度をスコア化
  4. 重要度の高いリスク・機会の損益・資金計画に与える影響額を試算
    炭素税の影響については、中長期における当社グループの総排出量を2021年度と同水準の約43万t-CO2/年(Scope1+2)とし、各生産拠点における炭素税価格をIEA「World Energy Outlook2021」のNZEシナリオ(進展シナリオに相当、先進国:約18,000円/t-CO2)に基づき推算しました。
  5. 影響額をもとに、重要度の高いリスク・機会を特定し、対応策を策定
気候変動関連における重要度の高いリスク・機会および対応策


リスク 機会 対応策
短 ・中期 長期 短 ・中 ・長期







  • 炭素税等のカーボンプライス導入による税負担増
    (約73億円/年の負担増加)
  • 脱炭素に向けた早期対応による差別化で事業機会獲得
  • 低炭素化技術導入による事業機会拡大
  • 自社石炭火力発電所におけるCO2フリー燃料の活用
  • CO2フリー電力の活用拡大
  • CCU/CCS関連技術の開発・導入
  • 自社石炭火力発電からの移行コスト増
  • 資源循環促進法の施行による廃プラ類の排出量削減コスト増
  • 環境関連ビジネスの需要拡大
  • 環境関連新規事業の推進
  • 廃プラ類のリユース推進
  • 新たなリサイクル技術の開発・導入
  • 原材料、燃料価格の上昇
  • 輸送に係るコスト増
  • 原材料の切り替え、使用燃料削減
  • 高付加価値製品の創出

  • 低炭素化技術・製品の研究・開発コスト増
  • 既存プロセスの効率化等の研究・開発コスト増
  • 低炭素化技術開発による事業機会創出
  • 創エネ・低炭素化技術の開発・導入
  • 高機能材の開発、技術導入

  • 既存製品の低炭素化対応遅れによる市場競争力低下
  • 環境配慮型製品・関連素材の需要の増加
  • 環境配慮型製品の開発(自動車、電子・電気機器等)
  • 低エネルギープロセスの推進

  • GHG排出に対する消費者からの非難や投資家からの対応要請
  • 脱炭素、資源循環対応を示すことによる安定した資金調達先確保
  • 消費者や投資家の関心に応える情報開示とコミュニケーションの強化









  • 自然災害によるサプライチェーン寸断による生産遅延・停止
  • 自然災害による製造工場やインフラとライフラインの直接的被災による生産遅延・停止
  • 災害対策、復旧工事の増加(建設関連事業)
  • サプライチェーンの強化
  • 定期的なリスクの抽出・低減活動





  • 原材料、製品の保管輸送温湿度管理の必要性増加
  • 農業関連製品の需要増加
  • 品質管理の強化
  • 新規アグロ製品の開発
  • 影響:大 (20億円以上)
  • 影響:中 (10億円以上20億円未満)

リスク管理

当社グループでは、経営に悪影響を及ぼすリスクを全社的に把握し、その顕在化の未然防止と顕在化した場合の影響の最小化のため、サステナビリティ推進委員会の下部組織であるリスク・マネジメント部会の統括のもと、経営に重要な影響を与える可能性があるリスクを特定しました。特定されたリスクは、リスクの分類に応じて各部会および関連部署が主管となり対応策を検討・実施しています。リスク・マネジメントの状況は、リスク・マネジメント部会がモニタリング・評価してサステナビリティ推進委員会および経営会議に報告し、その上で取締役会に報告されます。
当社グループでは、「気候変動」を、経営に重要な影響を与える可能性がある主要なリスクのひとつと認識しています。「カーボンニュートラルへの取り組み」は、サステナビリティ推進委員会の下部組織であるレスポンシブル・ケア部会が主管し、リスク・マネジメント部会と連携して進める体制を整えています。

指標と目標

GRI 305-1, GRI 305-2, GRI 305-3, GRI 305-5, SASB RT-CH-110a.2

GRI 305-1, GRI 305-2, GRI 305-3, GRI 305-5,
SASB RT-CH-110a.2

当社グループは、2050年度までにカーボンニュートラルの実現と生産技術の高度化による環境負荷低減を目指していきます。2030年度までの中間目標として、エネルギー起源のCO2排出量を2013年度比30%以上削減と定めました。

クレハグループのCO2排出削減目標

  • 2050年度にカーボンニュートラルを目指す。
  • 2030年度にエネルギー起源CO2排出量を2013年度比30%以上削減する。

その進捗の指標として、当社グループ全体の温室効果ガス(GHG)排出量について、燃料や電力などの使用にともなう自社の直接排出(Scope1)および他社から購入した電気、熱、蒸気などのエネルギー使用にともなう間接排出(Scope2)を算出するとともに、開示しています。化学会社として、原材料調達から廃棄にいたるまでのサプライチェーンを通じた排出(Scope3)の管理も重要であると認識し、この算出についても着手しています。
また、当社グループの製品・技術を通じて世界のGHG排出量削減に貢献するため、既存製品の新グレードを含めた環境配慮型製品や技術の開発に取り組んでいます。

エネルギー起源CO2排出量(対象範囲:クレハグループ)

SASB RT-CH-110a.1

単位 2013年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
クレハ 千t-CO2 426 376 363 379 393 367
国内グループ会社 21 23 21 20 22 21
海外グループ会社 18 28 28 30 26 24
合計 465 428 412 429 442 412
2013年度比 % 100.0 92.0 88.6 92.2 95.1 88.6
GHG排出量の推移(対象範囲:クレハグループ、単位:千t-CO2)
    2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
クレハ Scope1 356 340 359 355 327
Scope2 30 31 31 38 41
合計 386 371 390 393 367
国内グループ会社 Scope1 166 154 160 103 102
Scope2 6 6 5 20 19
合計 171 159 165 123 120
海外グループ会社 Scope1 4 4 4 3 3
Scope2 24 24 26 23 21
合計 28 28 30 26 24
合計   586 559 585 542 511
  • * 算出したGHGは、エネルギー起源および非エネルギー起源CO2
  • * Scope1については、2022年度から算定方法を見直しました。
Scope別GHG排出量(対象範囲:クレハ、単位:千t-CO2)
2023年度
Scope 1 327
Scope 2 41
Scope 3 【カテゴリ1】購入した製品・サービス 267
【カテゴリ2】資本財 18
【カテゴリ3】Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 37
【カテゴリ4】輸送、配送(上流) 59
【カテゴリ5】事業から出る廃棄物 1
【カテゴリ6】出張 0.2
【カテゴリ7】雇用者の通勤 0.7
【カテゴリ12】販売した製品の廃棄 52
合計 802

取り組み事例

CO2排出量削減の取り組み

省エネの推進

いわき事業所では、省エネ機器への更新を計画的に進めるなど、エネルギー削減計画を着実に実行に移すほか、エネルギー内部監査の結果を水平展開し、省エネを推進しています。物流においても、当社製品の輸送を担うクレハ運輸と社内関係部署が協働して、省エネ車両への計画的な更新に取り組んでいます。本社などその他の事業所においても、それぞれ節電、省エネ活動を推進しています。

再生可能エネルギーの活用

GRI 302-1

いわき事業所では、日本の再生可能エネルギー普及の方針に沿って敷地内に太陽光発電設備を設置し、毎年約300MWhの発電量を地域に供給しています。
また当社グループは、米国、オランダ、中国、ベトナムなどに生産拠点を有しています。エネルギー政策は各国の事情により異なりますが、各生産拠点では、それぞれの国の施策に沿って使用電力を再生可能エネルギーに切り替えるなど、積極的に気候変動緩和策を推進しています。例えば、欧州に拠点を置くKREHALON B.V.では、すでに使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄っています。また、中国に拠点を置く呉羽(上海)炭繊維材料有限公司も、積極的に太陽光発電の導入を進めています。

製品カーボンフットプリント(CFP)算定

製品カーボンフットプリント(CFP)は、原材料の調達から製造や使用、廃棄にいたるまでの製品ライフサイクルの全工程でのCO2排出量を表す指標です。当社は、主要製品の製品CFPの自主算定に着手しています。
また、カーボンニュートラルを実現するためには、サプライチェーン全体でCO2排出量削減を進めていく必要があることから、取引先とCFPの情報交換を進めています。

物流におけるCO2排出量抑制

物流においては、エネルギー消費原単位の年平均1%以上改善という目標達成に向け、車両大型化によるCO2排出量削減や総輸送距離の短縮、鉄道・船での輸送によるモーダルシフト推進を行っています。

  • * クレハのエネルギー消費原単位(物流):2006年度改正省エネ法に基づき、この年度の特定荷主としてのエネルギーをどれだけ効率よく使用したかを示す指標で、当社ではエネルギー使用量(原油換算量)を輸送重量で除して算出しています。

地域のカーボンニュートラル宣言への賛同

福島県では2021年2月に、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す「福島県2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。これを受け、これまで自主的な地球温暖化対策を推進するために当社いわき事業所も参加してきた「福島議定書」は、「ふくしまゼロカーボン宣言」となりました。当社グループは、2050年度のカーボンニュートラルを目指して取り組んでいることから、いわき事業所もこの宣言の趣旨に賛同しています。

製品によるカーボンニュートラルへの貢献